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日々雑感

幸せは日々の、雫のような時のなかにある。
毎月、つれづれなるままに・・・
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9歳の少年
 

 孫が9歳になったので、夫が「旅の切符」を手作りして贈った。

その切符を使って新幹線さくらが目的で夏休み最後の旅をした。その日、 宮島は雨だった。無数の雨粒が海面を叩く。対岸の宮島港も煙ってみえない。鳥居は波に洗われ清められているようだ。

  昨日橋の下に見た鹿、干潮の砂浜を動き回っていた蟹、魚、波頭の表情、水量の増えた川の流れ、少年の興味は尽きない。

雨の中を飛沫をあげて歩いている。祖父母はその姿に見とれる。 街の一角に見付けた工房はさっきまで働いていた人を感じさせるが、灯りはおちていた。鉋や大小の鑿、轆轤、おそらく職人さんが工夫を凝らし自ら作った道具類だろう、みたこともない長い柄の刃物がならんでいた。窓に額をおしつけて見ている祖父は「ほう、すごいな」と感嘆する。

伝統工芸と看板が上がっている所は明かりがついて、店らしい風体をしているが、ここはもう閉めて灯りも落としている。

表に回り「ごめんください」と恐る恐る声をかけ、引き戸を開けた。

奥から老婦人が出てこられた。灯りが点いて、松を素材にした棗や茶托、お盆や刳り物が並んでいることが分かった。さっきまで眠っていたそれらの品は突然の灯りに目覚めたようだ。

老婦人は工房の主の奥様だった。主は数年前になくなられていた。問わず語りに話されることから、工房の主が轆轤細工一筋に歩まれ伝統工芸士に認定されたこと、宮島細工の中心だったことがわかった。一流の腕がこの工房の空気に今も緊張感を与えている。主亡き後、片付ける気にはならない、道具類を譲ってほしいという声にも応じる気にはならないと奥様はおっしゃった。

 9才の少年の心を何かが捕らえた。話している大人を残してひとり工房の窓から一途に職人の残した道具類を見ている。

「おじいさんの作った棗ほらきれいやろう、この茶托はこれから磨いて黒うなって艶がでる。松脂が滲んで最初は透かして

みると灯りが通るけど 毎日磨いとると、硬くてつるっとして、こんなになるんや」と奥様が孫に話しかける。目を見開いてその言葉に耳を傾けている。こんな風にして、こころを膨らませているのかとあらためて驚き、これまで記憶にある彼の言葉を反芻した。

  ある時 「お母さんと別れるときは、いやだけど そのあとは もうちょっとこのほうがいいと思う。だってうるさいもん。それはいけませんとか いまはだめとか」 そういえばあれほど可愛く一途に母を求めていた柔らかい皮膚の舌足らずの坊やが、日焼けした硬い皮膚、ただしそれは初々しさを残した硬さで、鼻の頭の傷痕や膝頭の擦り傷は、舐めて治してやりたいような赤ん坊の頃の片鱗を残しているが、命の塊のような少年になった。

またある時 「死ぬときの気持ちってわかる?」おおばあば(曾祖母)が死んだ。笑っていたことや、ぼくを抱いていたことは前のことだけど、さっきまでは、眠っていたのに。鉄の扉が閉じて炎が眠っているおおばあばを包んだ。熱くないの?ああ、あ ぼくお葬式に行かなければよかったよ。それからずっと考えてる。死ぬってどんなことか。

ある時 「大人はどうして戦争するの?日本が戦争したらぼく池宮さんのところに逃げてきてもいい?家族みんなでゲストハウスに来てもいい?泊まっていい」またある時「みんなの前でピアノ弾くとき どきどきしないの?はずかしくないの」ぼくは恥ずかしいとき思わずふざけたり暴れだしたりしたくなるよ。「 ぼくはピアニストの池宮さんが大好きだ。いっしょにいると色々なこと考える。やさしいことってどんなこととか、平和を願うこととか」


  子どもを育てるのは大人の責任だと強く感じる。

 橋渡しする大きな愛を学びたい深く感じたい。


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